JAXAの低軌道測位衛星システム(LEO PNT)に関するフィージビリティスタディに選定 ~次世代の衛星測位システムの構築に係る検討を開始~

小型衛星コンステレーションの企画・設計から量産化、運用まで総合的なソリューション提供を行う株式会社アークエッジ・スペース(本社:東京都江東区、代表取締役 CEO:福代孝良、以下「アークエッジ・スペース」)は、国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)が実施する「低軌道測位衛星システム(LEO PNT)に関するFeasibility Study(その1)」の事業者として2024年10月11日に選定され、本事業を開始しますことをお知らせします。

低軌道測位衛星システム(以下「LEO PNT」※1)は、高度約20,000kmの軌道を周回する従来のGNSS(Global Navigation Satellite System)に比べて低い、高度900~1,200kmの低軌道を周回する小型衛星コンステレーションによって、高強度、高精度の測位情報をグローバルに提供することが期待されるシステムです。
 ※1 LEO:Low Earth Orbit、地球低軌道
    PNT:Positioning(位置)、Navigation(航法)、Timing(時刻))

従来のGNSSは、地球表面に到達する信号強度の弱さから各種干渉の影響を受けやすく、特に近年はジャミング(妨害)やスプーフィング(欺瞞)等の脅威が顕在化してきています。LEO PNTの高強度の測位信号は、これを補完するものとして期待されています。またLEO PNTが提供するより高精度の測位情報は、自動車の自動走行など多くの分野での活用の期待が高まっています。

事業概要

名称:低軌道測位衛星システム(LEO PNT)に関するFeasibility Study(その1)
事業内容:
本事業は、地上や地球低軌道のユーザに対して位置・時刻情報(PNTサービス)を提供するLEO PNTに関し、以下のフィージビリティスタディを実施するもの。
 ・ 低軌道測位衛星システム(LEO PNT)・衛星コンステレーションのトレードオフ評価
 ・ LEOに配備する測位衛星の機上(オンボード)でのGNSS航法及び測位信号生成評価
 ・ 測位信号の信号形式及び使用する周波数帯に関する評価
 ・ LEO PNT実証ミッションの概念設計(ミッションコンセプトの提案、衛星設計、軌道設計、衛星機数の評価等)
事業期間:2024年10月~2025年3月
参考URL:https://stage.tksc.jaxa.jp/compe/zui/zuikaku/FY2024-0199.pdf

低軌道測位衛星システム(LEO PNT)の主な特長

【高強度】
LEO PNTは、地表面からの高度が低い低軌道の衛星システムであるため、高強度の測位情報を配信可能です。信号の減衰や妨害に強いため、より確実な測位情報の利用が期待されます。

【高精度】
LEO PNTは、地球上の測位信号受信機から衛星を見た視線方向ベクトルの変化が大きいため、測位情報の収束時間が速く、高精度の測位が可能です。次世代の高度自動化社会(例:自動運転、自動農業等)に資する新たな測位サービスへの活用が期待されます。

【グローバル】
LEO PNTの衛星は、地球の低軌道を周回するように移動するため、新たな測位サービスをグローバルに展開することが可能です。MADOCA-PPPなど現在準天頂衛星に基づいているサービスの提供エリアの拡大も期待されています。

アークエッジ・スペースは、LEO PNTの高強度、高精度の測位情報が生み出すグローバルな 高度自動化社会の実現に向けた取り組みを推進し、より安全で豊かな未来の実現に貢献します。

高度自動化社会への期待

2024年欧州連合宇宙局の市場レポート※2によれば、GNSS関連市場は今後10年間で2.2倍の5,820億€に伸長し、その市場成長の伸びの大半は「サービス利用」によるものとされています。
分野としては特に、道路・交通分野、農業分野、都市開発分野の3つの伸びが大きく、LEO PNTの強みが発揮される高精度測位(高度自動化)に関連する部分も相応の市場拡大が見込まれます。
 ※2 EUSPA EO and GNSS Market Report 2024

【参考】関連するアークエッジ・スペースの取り組み

月測位衛星システム(LNSS³)及び月測位実証ミッションの検討」

アークエッジ・スペースは、JAXAと共同で、月近傍における測位・通信の研究開発を実施しています。2021年度以降順次、「宇宙開発利用加速化戦略プログラム」(スターダストプログラム)における契約を複数受託し、月面活動に向けた新たな通信・測位インフラの構築を目指して月測位衛星システム(LNSS)の開発を進めてきました。

現在、アルテミス計画を始めとする月面活動の活発化により、人類の生活圏・経済圏が月面へ拡大し、様々なビジネスを含む月面産業が立ち上がろうとしています。月面におけるローバー走行や基地建設などの活動には、地上と同様に測位や通信等の基礎インフラが必要です。月通信・測位の国際フレームワークであるLunaNetの検討がNASA・ESA・JAXAで進められており、各国共同で月にGNSSの様な測位衛星システムを構築する構想が国際的に進められています。この月版GNSSの月測位サービスはLANS(Lunar Augmented Navigation Service)と呼ばれ、日本の月測位衛星システム(LNSS)もその一つの衛星ノードを構成し、LunaNetで標準化される測位信号AFS(Augmented Forward Signal)を欧米の測位衛星と共に月面に向けて配信する計画です。これにより、月測位の初期の段階から月面のユーザは高精度な月測位サービスを享受することが可能になります。その際、LNSS衛星自身の位置及び時刻の決定も必要であり、現在国内では月近傍まで届いたGNSSの漏れ電波を用いて測位衛星の位置及び時刻決定を衛星オンボードで行う検討が進められています。また、これらの技術を月軌道において実証するためのLNSS実証ミッションの検討も並行して進められています。

LNSSは、GNSS観測量をベースとした衛星オンボードでの軌道時刻決定を元に測位信号を放送するという点で、今回選定されたLEO PNTと共通の技術を用います。アークエッジ・スペースは、このような先行する関連事業で得られた先進的な技術や知見を活用し、LEO PNTに係る取り組みを着実に推進します。
※3 LNSS: Lunar Navigation Satellite System

【月測位衛星システム(LNSS)実証ミッションの概念図】